おまえさん 作:宮部みゆき 感想

この本、はじめはなぜ"おまえさん"なのかわからなかったのですが、上下巻の内、上の後半部分から"あっ"という気付きがあって、下巻は"おまえさん"がいっぱいでした。ライトな時代小説という感じで、どんどん読める宮部ストーリーはいつものことですが、ここに今回は、『逢』とか『哀』とか『愛』があるんです。なかでも、スパイスが効いているのは、【本宮源右衛門】と【淳三郎】、その境遇と時代を背景とした嫡男以外の扱い、これが物語全体の底辺に流れているようです。長男でないが故に跡取りになれないその日陰さが無性に沁みるんです。メインに描かれている『逢』や『愛』よりも、跡取り以外の兄弟を横目に見ながらの『哀』が、心に残るんです。
相変わらずの"おとく屋"での日常、本当に微笑ましいです。井筒平四郎、いまの日本に必要なのかもしれません。