百年法 作:山田宗樹 感想

この本、長編SFなんですが、今年読んだ本の中で『一番』面白かったです!
『百年法』文字通り百年がキーワードなんです・・・本の中の20世紀に、偶然見つかった不老不死ウイルスの研究により、HAVIと言う施術が完成した。成人以降、個人の好きな時期に施術を受けられるようになるが、受けた人は、その時点の肉体を維持し、それから100年の命を得ることになる。老いる訳ではなく若い肉体を維持して過ごしていける。すなわち、術後100年の命とは、人の寿命とは違い人口抑制の考えのもと人が創ったルールである。たとえば、25歳でHAVIを受けると、実年齢は、75歳(術後50年経過)でも、体は25歳のままで、精神だけ年輪を重ねている。そして、あと、50年は生きていられる・・・100年の満期になると、ターミナルセンターに出頭し、安楽死の形をとるのである。
こんな世界っていつかくるのかもしれませんね。100年がルールならそのルールに反して「生きたい」と思う人が出てくるのは当然だし、そのルールそのものを撤廃すべく政治的に動く人も出てくる。私は、読んでいてどんどん物語に引き込まれていきましたが、なぜだか今のリアルに動いている日本の政治局面にも似たような感覚があり、すごく学ばせてもらった感があります。"生"というのは、とっても厳粛なものです。国民を守り次世代に国を繋いで行く。そのために必要なものって、本の中のSFの世界でも、リアルな今でも変わらないと思います。第三極が台頭し、選挙は盛り上がりを見せていますが、何が優先で何をすべきか、『政党』にフォーカスではなく、真のマニフェストにフォーカスして欲しいですね。そういった意味でも、政治家の皆さんがこの百年法を読むことを提案します!

風花病棟 作:帚木蓬生 感想

短編集ですが、ほんと帚木さんの作品は泣けるんです。今回の風花病棟は、花がテーマにあります。花って、絵になりますよね。だって、見ているだけで癒されたり、なごんだり、落ち着いたりで、無言の花なんだけど引き込まれる美しさと、語りかけてくる神秘さがありますよね。そんな花が短編それぞれに散りばめられています。なかでも私が好きなのは、『百日紅』と『チチジマ』で、両方とも、父と息子が出てくるんです。それも父は亡くなっていて・・・なんというか、私もこの歳だから同じようなシュチュエーションが響くのかもしれません。読んでいて通勤電車の中でしたが、涙で本が見えなくなりました。
人が亡くなる場所のほとんどが、現在では病院といいます。病院には、だから人それぞれの物語のエンディング、ライフ・エンディング・ステージがあり、それは命の尊厳が担保される場所であることが大切です。すべては人、人が創る空間なんです。

おまえさん 作:宮部みゆき 感想

この本、はじめはなぜ"おまえさん"なのかわからなかったのですが、上下巻の内、上の後半部分から"あっ"という気付きがあって、下巻は"おまえさん"がいっぱいでした。ライトな時代小説という感じで、どんどん読める宮部ストーリーはいつものことですが、ここに今回は、『逢』とか『哀』とか『愛』があるんです。なかでも、スパイスが効いているのは、【本宮源右衛門】と【淳三郎】、その境遇と時代を背景とした嫡男以外の扱い、これが物語全体の底辺に流れているようです。長男でないが故に跡取りになれないその日陰さが無性に沁みるんです。メインに描かれている『逢』や『愛』よりも、跡取り以外の兄弟を横目に見ながらの『哀』が、心に残るんです。
相変わらずの"おとく屋"での日常、本当に微笑ましいです。井筒平四郎、いまの日本に必要なのかもしれません。

九月が永遠に続けば 作:沼田まほかる 感想

季節は冬になって、9月は過ぎた頃ですが、書店に立ち寄ると、人気No.1と書かれたPOPがあり、思わず手にとってしまいました。
この本、ゴミ出しに行って、忽然と消えた息子の文彦、いったいどこに行ってしまったのだろうか、幼馴染が、クラスメートが、そして母の離婚ではなれ離れにになっている父が、消えた文彦を探す。文彦を探す過程で、次々と明らかになる新事実、そして、暗い海から大きな白い獲物を捕る漁師の絵、文彦が消える前に残したメッセージのようにも受け取れる。はたして、文彦はどうなったのだろうか・・・私は、読み進めるなかで、物語の展開にあきれることもありました。母の奔放さ、父の意味が解らない行動と性癖・・・その行きつく先は・・・ちょっとびっくりでした。でも、最後には、9月の意味がわかったような気がします。9月ってアンニュイな感じの月ですよね。乙女座生まれの私がいうようなことではありませんが・・・ハィ。
びっくりでした、後から分かったのですが、うちのカミさんも同じ本を買って、ほぼ同時に読んでました。POPの力か本の力か正直に言うとわかりませんが、家には同じ本が2冊あります。結構、趣味が違うので、かぶることは無かったのですが、不思議な感じです。

ファミリーポートレイト 作:桜庭一樹 感想

マコとコマコ・・・親が子を愛する気持ち、子が親を慕う気持ち、ファミリーポートレイトという一見して、温かそうな響きのある言葉とは真逆の世界感がこの本にはありました。
ここには、何かから逃げる生活を繰り返しているマコとコマコの2人。コマコの歳を追うようにその歳に『どんなところで、どんなふうに生きてきた』かが綴ってあります。その生活は、荒海に投げ出された小さな小さな船のように、いつ流され転覆するやもしれない状況で、俗世間から離れ、不安定で明日をもしれない毎日だけど、マコにはコマコが、そして、コマコにはマコがいればいいと言うくらい強い絆で結ばれていているのが、暗い綴りの中の光のように感じられます。決して楽しく読める物語ではありません。でも、読み進めていくうちに、コマコの成長を楽しみにしている自分がいました。コマコは語り手となり、そして、文壇にでていくのです。でも、文筆活動は、小さい頃の凄惨な生活そのもので、そうならないと文字そのものを体から絞り出すことができないのです。作家の方、皆が皆そうだとは思いませんが、人とは違った生活や世界観をもっていないと、人を魅せる・お金を出して読ませる作品なんて書けないのかもしれません。そんなコマコが、流浪の作家として生きる一方で、Man of the world、人間らしいことにも目覚めていくのです。この感じ、読んだ人にしか理解してもらえないかもしれませんが、なぜかホッとしているとともに、舌打ちしている自分がいました。
その後のコマコは元気なのでしょうか・・・きっとたくさんのファミリーポートレートを積み重ねているけど、どこかさめた目で見ている・・・そんな感じがします。

平成猿蟹合戦図 作:吉田修一 感想

いったい誰が主人公だったんだろう・・・タイトルの『猿蟹合戦』があっちこっちにあって・・・というのが読後の第一印象でした。

昔話の『猿蟹合戦』は、思い起こすと柿を持っていた「サル」とおにぎりをもっていた「カニ」が物々交換して、カニが柿の種を植えて『早く芽をだせ柿の種、出さなきゃ鋏でちょん切るぞ』と言いながら育てて、立派な柿ができると「実を採ってやる」といってサルが再登場して、そのサルが柿の木に登り自分だけ柿を食べて、下から見守っているカニに上から柿の実を投げつけ殺してしまう。その後、そのカニの子供が栗と臼と蜂と牛糞という仲間を集い、親を殺したサルを家に呼び出し、持ち場に隠れた仲間とともにサルに復讐する。・・・といった多々ある昔話の中でも、少しエグさすら感じ、悪行は必ず裁かれるといった教訓のあるお話しだった。・・・この本、その【平成版】というタイトルだから、『だれがサルで、だれがカニだ?で、いったい何があって、どうなるの??』ってことになるけど、ネタバレするから書きません。でも、現代の猿蟹合戦って生活そのものやそれを取り巻くことだったりするのかもしれませんね。

美月・朋生・瑛太、純平・夕子・湊、美姫・高坂、そして、サワばあさん・友香・・・いろいろあるよね、サワばあさん・・・

とても『スカッとする』物語でした。

正義のミカタ 作:本多孝好 感想 

あなたには「正義のミカタ」がいますか?その人はどんな人ですか・・・

この本、いじめられっ子の亮太が地元のいじめっ子がいない新天地の大学に進学して、そこで出会った『正義の味方研究部』の面々と一緒になり、キャンパスで起こる悪事に対し正義の鉄槌を下し解決していくといったストーリー。気弱な亮太は正義の味方研究部での活動を通じて、正義の本当の意味を探すようになる。何が正しいのか、自分はどうしたらいいのか、そして、亮太が出した結論は・・・亮太は、どちらかというと『フリーター家を買う』の主人公のような感もありで、とても芯のしっかりした青年なんです。遠慮がちといったところが、気弱なキャラの根底のような気もしますが、しっかり考えて行動するから遠慮してるように見えるんです。でも世の中、見た目が大事、ダメだと思ったら直さなきゃ。それは、全てに通じることですよね。

一気に読めます。毎度のことですが、本多作品は、すごく読みやすいですね。人を魅せるキモを押さえた文章を創れることは、ほんとうにうらやましいですね。

ひとつお願いです、この本、どうしてもその後の亮太を知りたくなります。大学を卒業して、世の中に出た亮太を書いてください。お願いしま〜す。