ファミリーポートレイト 作:桜庭一樹 感想

マコとコマコ・・・親が子を愛する気持ち、子が親を慕う気持ち、ファミリーポートレイトという一見して、温かそうな響きのある言葉とは真逆の世界感がこの本にはありました。
ここには、何かから逃げる生活を繰り返しているマコとコマコの2人。コマコの歳を追うようにその歳に『どんなところで、どんなふうに生きてきた』かが綴ってあります。その生活は、荒海に投げ出された小さな小さな船のように、いつ流され転覆するやもしれない状況で、俗世間から離れ、不安定で明日をもしれない毎日だけど、マコにはコマコが、そして、コマコにはマコがいればいいと言うくらい強い絆で結ばれていているのが、暗い綴りの中の光のように感じられます。決して楽しく読める物語ではありません。でも、読み進めていくうちに、コマコの成長を楽しみにしている自分がいました。コマコは語り手となり、そして、文壇にでていくのです。でも、文筆活動は、小さい頃の凄惨な生活そのもので、そうならないと文字そのものを体から絞り出すことができないのです。作家の方、皆が皆そうだとは思いませんが、人とは違った生活や世界観をもっていないと、人を魅せる・お金を出して読ませる作品なんて書けないのかもしれません。そんなコマコが、流浪の作家として生きる一方で、Man of the world、人間らしいことにも目覚めていくのです。この感じ、読んだ人にしか理解してもらえないかもしれませんが、なぜかホッとしているとともに、舌打ちしている自分がいました。
その後のコマコは元気なのでしょうか・・・きっとたくさんのファミリーポートレートを積み重ねているけど、どこかさめた目で見ている・・・そんな感じがします。