さよなら渓谷 作:吉田修一 感想

はじまりは、あの秋田連続児童殺害事件を思い起こさせるシーンだったが、それは単にお話しの飾りで、実のところその犯人である母親の隣に住む尾崎俊介が主人公の物語だ。俊介が大学の野球部時代に仲間と起こした女子高生暴行事件。それからの十数年、悔やんでも悔やみきれない心のしこりを持っている犯人俊介の男側の人生、生活の場を変えだれも知らないところで生きて行こうとするが、過去の事件のことが知れてしまうたびに当時に引き戻され幸せが壊れてしまうといったことを繰り返す被害者夏美の女側の人生。「どうしても許せない」という一言が、物語をぐいぐい引っ張る。そんな重いテーマで、2人の関係が記者目線で書き綴られている。果たして夏美は俊介を許せたのだろうか・・・渓谷に落したピンクのサンダルの意味は・・・一気に読めるとてもリアルな作品でした。