償い 作:矢口敦子 感想

『償い』というタイトルからして純文学のようですが、正真正銘のミステリーでした。

主人公の日高は、以前大学病院の医師をしていて、現在はホームレス・・・日高の想いがタイトルの償いになっています。

全編を通じて気になった文は、以下の2文です。「人の肉体を殺したら罰せられるけども、人の心を殺しても罰せられないんだとしたら、あまりに不公平。」「不幸な人は死んでしまえば、もう不幸は感じずにすむ。」
考えれば、あたり前のことでも、文章にすると迫力すら感じられます。しかし、文意は、心の弱さや慈悲を現しているようでもあります。

少年犯罪・栄光からの転落・妬みや嫉妬・・・・・いずれにしても、今の世の中に投石といった感じですね。

一気に読み終わりました。

はじめは「医師」「ホームレス」ときたので、はやりの医師ネタのような気がして、横向きに構えてましたが、そのキャラだからこそ光る探究心など、嫌味もない展開にグイッと引き込まれました。少年がひき起こす『人を救うための殺人』。その少年の幼児期に救急救命し、今はホームレスの医師の心の葛藤・後悔・・・そして、生き続けることでの『償い』。生きること、すなわち苦役と実感していますが、まさにそれを意識付けた小説でした。

評価:★★★☆☆

来週は何を読もうかな???