IN 作:桐野夏生 感想

INは、『淫』であり、また『隠・因・隠・姻』となり、そして『IN』に戻る。それぞれのINは、その漢字の示す意味のストーリーで組み立てられていて、さらに相互に繋がっている。
この本は、小説家「鈴木タマキ」と担当編集者「阿部青司」の出会いからお互いの家庭を省みない恋愛、そして憎悪すら見え隠れする別れが、緑川未来男の「無垢人」という不倫と家庭崩壊や夫婦の諍いを書いた小説を探求することに重ねて書かれています。はじめは重いテーマに少々疲れてなかなか読み進められない感もありましたが、「無垢人」の中の緑川の不倫相手である○子を探す中盤あたりから、家族・夫婦など考えさせられることもあり、気が付けば貪欲に読まされていました。それと、タマキが語る小説家は凄く繊細・緻密で戦略家です。「真実と思えたものを書いた時点で、それはフィクションになります。それを知っている作家は、真実と思えるものを魅力的に、そして面白くします。そのためには、真実に間違われるフィクションが必要なのです。ですから、作品はすべてフィクションなのです。」この文からも、作家の緻密さがにじみ出ていますよね。なんだか、こんな風に純粋に作品作りが出来る作家さんが羨ましい気がしました。桐野作品、また読んでみたいです。