父の背中

先週から給湯器が故障している。そのため、1階の親世帯の風呂を夜な夜な借りている。一昨日の深夜1:30頃、風呂に入ろうと階段を降りていくと、トイレに用足しで起きた父が寝ぼけ眼で廊下を歩いてきた。1階の風呂の隣はトイレ、その正面は階段になっているため、鉢合わせた感じだ。父は今月73歳になった。見た目は矍鑠としていて、ヘラ釣りが三度の飯より好きでアウトドア系のため、冬でも日に焼けており、肌の色は薄めの松崎しげるだ。家族からは、毎日竿を背負って自転車をこいで釣り場に出かけていく姿から、『浦島太郎』と呼ばれている。そんな父が、深夜の風呂場前で、「肩が痛くて手が上がらない、背中が痒いんだけどかけないんだ」と言って私に背中を向け寝巻をたくしあげた。「真ん中あたり、右・・・ちょっと行きすぎ左下」など指示を受けながら患部を掻いてやると胸のつかえが取れたような表情で「ありがと」っと一言。その後、私は風呂に静かにつかりながら、父がトイレから寝床に戻る音を遠くに聞き、ホッとしながらも、ふとしたことから感じた父の背中の小ささに寂しさいっぱいになった。家族を守るため働き続けた父の大きな背中は、私の自慢だった。「今日は何にするマグロ・イカ・タコなんでも安くて美味いよ!」威勢のよかった頃の声が脳裏に蘇る。今、その背中を引継いだのは自分だ。改めて、その重さを実感した。