真夜中のパン屋さん 作:大沼 紀子 感想

「パン屋さんが真夜中にやってても売れないじゃん。」そう思って手にとったのが、この本です。端的に言うと心温まる本です。真夜中しか営業しないパン屋。人の心を癒せる男と愛情を込めたパンを作れる男、2人で営業するパン屋。現実では、なかなか無いパン屋に心を引かれ、疑似体験している気持ちで読みました。
パン屋さんはいい匂いがするし、色んな形の色んな味がするパンが売っているから大好きです。真夜中にパン屋さんを見つけたら間違いなく立ち寄るでしょう。
きっと心に傷を持つ人もそういった気軽な気持ちで立ち寄れる。儲かるか儲からないかでなくお客さんの話をじっくり聴いてくれる。そんなパン屋さんの器の大きさや温かさに触れると小さな事で悩んでいる事がばかばかしく思えます。まるで青空のような存在だと思いました。青空を見ていると心を広く持てる気がしませんか?私は特に心に傷を負っている訳ではないけれど、この本を読んでとても癒されました。

心を整える。 作:長谷部 誠 感想

この本を読む前も長谷部さんは好きでしたが、サッカーのルールは詳しく知らないので買わずに図書館で借りました。が・・・読んでからこの本は絶対買って読んだ方がいいと思いました。サッカーのルールを全く知らない人でも、長谷部さんの人生における教訓のようなものをたくさん学ぶことができます。本の題名どおり本当に心が整います。長谷部さんが今、海外のリーグでも活躍できるのは才能なんかではなく日々の行いから努力している事が分かります。長谷部さんは1日に1度、自分の心を見つめ直す時間をもうけるようです。長谷部さんが冷静にプレーできる理由はその時間にあるように思います。もし日本中の人が心を見つめ直す時間を作ったら犯罪が減るような気がします。自分流のルールを持ちながらも相手の考えを否定するのでなく1つの考え方として受け入れていく長谷部さんの姿勢を見習いたいです。私にとって1年に1度は読み返したい本です!サッカーに限らず自分が今がんばっている事にあてはめて是非1度読んで見てください!

悪の教典 作:貴志祐介 感想

 読みはじめは、『告白』のような展開になるのかなと思ってたんですが、蓮実は予想をはるかに超えた狡猾さで、二手三手先に手を討ってくるんです。その策略の根底になるものは、まさに情報であり、マーケティングです。なんだかドラッガーの理論を忠実に再現して、PDCA(計画・実施・評価・改善)しているようで、読み進めながら内容を超越して事案に移し替えて「なるほど」と感じるところもありました。とはいえ、生徒のため・学校のために作った監視カメラや防災扉など先進の集中管理インフラが、先進という言葉を逆手にとってもろ刃の剣だということも知らしめてもいるようです。最近起きた『米大統領専用機のフライトプラン(飛行計画)などの航空管制情報漏えい』も、情報を知りえる者の内部漏えいであり、疑うは内部の人間のさいたるものですね。こんなことが頻繁に起きているとは思いたくないですが、教師というある種の聖職に就いている人でも、頭が切れるだけに誘惑も多いのでしょうね。子をもつ親としては、何を信じればいいのか分からなくなるくらいの衝撃ですが、反面教師で【信じるだけではいけない】とも教えられますね。

ともかく、この本面白いです・・・が・・・グロくて、怖いです。

箱庭図書館 作:乙一 感想 

ボツ原稿を乙一流にリメイクすることで生まれたそれぞれの物語は、それぞれの味やベクトルがあるものの、主人公に連鎖性を持たせることで、それぞれのパズルピースがぴったりはまって一枚の絵を作っているかのようです。匠の技を目の当りにしているようで、一気に読まされました。
中でも私が気に入ったのは「ホワイト・ステップ」です。【じゃんけん】がキーワードなんですけどネタバレになるので多くは語りませんが、ホワイト・ステップを見つけられないかと次の冬の、雪明けの早朝のだれも歩いていない新雪のある場所で、耳を澄まして、じっと雪を見てみたいと思います。

王様ゲーム 滅亡 6.08 作:金沢伸明 感想

王様ゲーム・・・書かれている内容のパターンが分っていてもまた手にとってしまいました。最新刊が出るたびにどうも気になるんです。『首がゴロン』・『手足が落ちた』などグロい表現があって「次は読むもんか!」って思っていたのに、少し時間がたって書店で見つけてしまうと気になっちゃうんです。
今回のステージは、広島県の高校生そして日本の高校生で、いままでよりもスケールが大きく国家が出てきましたが、これがまた皮肉なように現在の政権と同じで即断・実行しないんですよね〜。いつにも増してグロさがスケールアップして、王様ゲームの対象者がクラスからスケールアップした分だけ被害者が多く、『ウッ』って感じだったけど、最後の終わり方はなに!?
もういいかなって思っているのに、次も期待してしまう自分がいるのでした。
ひょっとして、オレって・・・

困っている人 作:大野更紗 感想

 病気と対峙するって、どんなに具合が悪くても、強い意志で自分が努力しないといい方向に向かないんだな。努力したぶんだけ好転するのは、病気以外のことと同じ・・。また、どんなに信じていたいと思う医師でも、所詮は『他人』であり『自身』ではない。だから、裏切られたと思う瞬間もあるし、それがしかたないことと思えるまでには一皮二皮も精神的に成長しなければならない。

この本は、辛いと思えるくらいの難病と戦った様子をユーモアたっぷりに『読み手』の立場で分かりやすい(読みやすい)ように描かれていました。作者の大野更紗さんが今もなお引きずる難病の発症から病名が判明するまでの奮闘や心の葛藤、さらに、入院しての闘病が、更紗だけにサラッ(ここは笑うところです!)と書かれています。全体的に人間のホッコリした感じが、文面からも伝わってくるのですが、一方で、社会保障や病院制度の混沌でドロッとした世界も解説されています。何がいいとか悪いとかではなく、ありのままがそこにはあって、不条理と思われても享受せざる負えない現実があり、それに立ち向かう作者がドンキホーテのようにも写ります。

素直にいうと、すんなり読めていい本なのでしょうが、少し読み物としては物足りなさも感じました。でも、更紗さん、あなたの第一歩は、相当勇気のいることで、私にはできないでしょう。ムーミン谷のご両親、あなた方の娘さんは、素晴らしいです。生きるって大変なことですよね。

四十九日のレシピ 作:伊吹有喜 感想

 普通しっとりと執り行われる四十九日法要が、こんなにもたくさんの人たちの想いに暖かく囲まれて大宴会のようになるなんて、その人が生前にやってきた「人と接するときの献身的な優しさ」や「覚悟」が伺えて、すごく幸せな人生であり、そして充実した濃密な時間を過ごせたんだろうなと思いました。

乙母はお金で買えないものを持っていました。それは「あふれんばかりの愛」だったんだと思います。世の中には人と深く関わることを嫌う人もいます。でも乙母は、自身の身に付けた料理や家事の"いろは"を伝えることで、関わる人の笑顔を引き出していたんです。それは根気のいる刷り込みの繰り返しだったと想像しますが、それにより滲んできた愛は、暗闇で迷えるリボンハウスのメンバーにとって一縷の光やよりどころになったんでしょう。それが、想い出の歴史となり、家族では埋めきれなかった乙母の「あしあと帳」(年表)に皆が記してくれたことに繋がったんです。

四十九日のレシピは、乙母が残した『楽しく家事をするためのレシピカード』で、そこに描かれた微笑ましい絵や文字は家事や料理のやり方を伝えるだけでなく、生活に元気とうるおいを与えてくれるものでした。

どこか夏版の『いま、会いにゆきます』を感じさせるところがあります。映像化されたら是非観たいです!!切に期待します。