雨やどり 作:半村良 感想 

先週1/15、先日紹介した『悼む人』が直木賞を受賞しましたが、過去の直木賞で唯一SF作家として受賞したのが、この作者・この作品です。はじめて読んだのは、約10年位前で当時勤めていた会社が池袋から初台に引越した頃、となりの新宿に興味を持ち、いろいろ読んだ本の中の一冊でした。半村良といえば『戦国自衛隊』のような時代融合のSF作品が思い浮かぶのですが、この作品はSF色が全く無く、新宿の街の人情や、夜の仕事の悲哀が「ルヰ」というバーとそのマスター仙田を中心に書かれている短編集です。中でも、直木賞作品でタイトルカバーの『雨宿り』は、仙田とホステス邦子の出会いから、新宿の街の仲間の反応、とうとう年貢の納め時かという仙田の気持ち、少しずつわかっていく邦子の実態、そして別れる2人、振返れば出会いは雨宿り、結局、服役から戻ったヤーさまの元へ帰った邦子、こちらも仙田への雨宿り・・・からっぽになった心の穴を新宿の街が包み込む・・・そんな物語です。
新宿を舞台にくりひろげられる笑いあり、涙ありの人情小説。読み手の重ねる年輪とともに見方も変わるので、時代を超えて幾通りもの感じ方ができて面白いですね。