どぶどろ 作:半村良 感想

先日紹介した雨やどりのあと、書店で半村良の作品を見ていたら、タイトルが気になって手にとった一冊です。
主人公は、ひどい蟹股をもつ平吉。小さい頃親に捨てられ天涯孤独の身となったが、江戸人情に支えられ、一点の曇りもなくまっすぐに山東京伝の従者として働いていていた。年を重ね銀座の親分とも呼ばれるようになった平吉は、ある辻斬り事件をきっかけに世の中の裏を覗くことになる。そこで平吉が見たものは、人の欲や真っ黒な腹、忠義を尽くした京伝までも・・・銀座にはびこる銀貨鋳造に絡む利権構造、商人だけでなく役人や大名そして将軍争いにも及ぶ金の流れ・・・そして真相を知ったものに訪れる口封じ・・・江戸の天明末から寛政の世を舞台とした時代小説だが、今の時代にも通じる平吉の言葉が新鮮で印象的だ。仲間の松之助との話し「夢さ、夢を持たずに生きるってどういうものなんだかなと思ってな」、世の中のからくりが見えた後の叫び「江戸なんか焼けちまえ・・・この世の中はどぶで、俺達はどぶどろなんだ。上も下もねえ、みんなどぶどろだ。饐えて腐ってプンプン匂ってやがる。」など、まさに米国の政府が公認したサププライムローンが原因で、それに絡むショックが引金となった不透明な経済不況、その中でも夢や希望を持って次の時代を切り開くために生きることの大切さ、そんなふうに読めるのは私だけでしょうか。Bad Endですが、すごくおもしろかったです。