夜の公園 作:川上弘美 感想

自分の中では、煮え切らない恋の描写ならお勧めは「川上弘美」なのですが、その領域がさらにパワーアップして、のんびりした雰囲気の中の愛憎、いわば、『夏の高原の真ん中のコタツみかんと膝枕』(よけいわからないか?!)、ストレートに言えば『まったりとした不倫』にまで拡がっています。

死ぬことも、生きることも、愛することも、愛さないことも、かんたんだな。悟は思う。でも、それらを容易に「かんたんだ」と思えるくらい、俺はきっと若いんだな。

これは、この本の中で一番印象に残ったフレーズです。愛する人を振り向かせたい、もうどこへも行ってほしくないという思いつめた感情から無意識に心中を選ぶが、でもできない・・・そんな男の言葉です。正直言って、自分というものさしでこの物語を見ると「なにのんびりしてるんだよ、もっと正直になれ!あまったれるんじゃない、人生ってもっと生きるのに懸命でなければ生き残れないよ!」なんて説教したくなるようなリリと春名なんですが、一方で、素直な行動の2人に嫉妬すら感じる自分がいるのも事実・・・煮えたんだか煮え切らないのかいつもスッキリしない物語を創る作者ですが、不思議と次も読みたくなるんですよね・・・。