造花の蜜 作:連城三紀彦 感想

誘拐事件を題材にした小説はたくさんあります。先日ご紹介した『死亡推定時刻』も富士吉田市を舞台とした女子高生の身代金目的の誘拐が書かれていたのは、私も記憶に新しいです。でも、この「造花の蜜」における誘拐は、ひとことで言うと、『蘭』というクールな義賊の多重誘拐事件、いわゆる警察と誘拐被害者が犯人の完璧かつ多重のシナリオに振り回されるのを、推理しながら読み進めるといったところでしょうか、とにかく2転3転4転・・・無血の犯罪って、こんなにきれいに決まるとある意味で美学・陶酔の世界だろうなって気がします。
物語は、幼稚園に通う圭太の誘拐からはじまります。幼稚園に母に化けた女が圭太を迎えに来て連れ去ってしまったのです。幼稚園の先生は、母親に圭太を渡したことを疑わないし、服装も一緒だったと訴えます。でも、本当は・・・別れた歯科医の元夫、傾いた実家の工場を必死に支える父、痴呆でわがままになってきている母、子供を連れて出て行ったことを許さない姑など、複雑な家庭環境の中、事件は周りにいるだれもが犯人でもおかしくないような様相になります。でも、犯人『蘭』の目的は別のところにあったのです。
渋谷の駅前スクランブル交差点の真ん中・・・立ち止まって、天をあおいだら、冬空に蜂が飛ぶ姿が見えるのかもしれません。これがひとつのキーワードです。
最後に、面白く読めましたが、後段の仙台の事件は無くても良かったんではないでしょうか?みなさんもお試しください、どう思います??