6月6日生まれの天使 作:愛川晶 感想

6月6日(正確には漢数字表現の六月六日)とのタイトルを見て「ダミアンって悪魔だよな、それがどうして天使なんだろう」と、本のタイトルに魅かれて読んでみました。

この本、章毎に前後する時間の変化は、読み手にある種の錯覚と疑問を抱かせます。さらに、興味があったのは、『前向性健忘』という記憶喪失、発症する前までの記憶は鮮明ですが、発症してからは、物事を覚えていられる時間が数分から数時間と短くなってしまうということでした。これだけ短いと、いつも接している人でも一日に何度も『はじめまして』といった状態になるし、テレビのドラマは1時間の単発もののストーリーですら記憶していられません。以前聞いた話しですが、「金魚が物事を記憶していられる時間、いわゆるメモリースパンは2秒間。だから、金魚鉢を何周してもいつも新しい景色として外を見れるから飽きないでいられる」まさにその状況。記憶喪失を扱った本は多々ありましたが、前向性健忘を扱った本って初めて読んだ気がします。そして、さらにこの前向性健忘を患っている人が、暴力団に飼われている陸自あがりのヒットマンという設定だからハラハラ・ドキドキです。

読んでみて、一言、そうだったのか・・・と、6月6日生まれの天使の意味もわかり、ネタバラシはしませんが、書籍の世界にしかできない、なるほどとうならせるほど巧妙なシナリオがありました。脱帽!面白いです。3次元の世界ではできない、2次元の本と読み手の空想があるからこそできること、今後も期待しています。