かたみ歌 作:朱川湊人 感想

昔の商店街には、その街毎の人情や風情があった。いつの頃からか商店街は、郊外型の大型店舗に喰われ、人通りや臭いがなくなり、音が消え、ついにはそこに住む人の気配すら奪われてしまっている。『シャッター通り』いまでこそ普通に理解できる言葉だけど、そこにあったはずの人や街の象徴は、どこに行ってしまったのか・・・この本の中に出てくる「アカシア商店街」と十時十分眉の店主のいる「幸子書房」で改めて商店街・人情など考えさせられた。
7編の短編で構成されたこの本「かたみ歌」の中で、いちばん印象に残ったのが『おんなごころ』です。スナックの従業員だった豊子の心をサバサバとしているようで情に厚いそのスナックのママ目線で追ったものですが、背筋がゾッとするような結末に思わず涙がこぼれました。なぜだか実際に身近にもあるような物語に恐さすら覚え、加えて一瞬の判断が最悪の結果になってしまう儚さを感じました。この本、ノスタルジックな中に読み手に疑問を訴えかけるようなところもあり、読み手の年代で感じ方が違う気がします。古き良き昭和・・・また何年かしたとき読み返したい、そんな気持ちにさせられました。