卒業 作:東野圭吾 感想

『雪月花之式』ってわかりますか?私は、はじめてこの本で知ったのですが、茶道のカードゲーム(札によるクジ引き)のようなもので、雪:茶を飲む人,月:菓子を食べる人,花:次の茶の準備をする人を毎回札を引いて決めていく。もちろん札には、表に松の絵、裏に雪月花の各文字と、ハズレクジとして、一二三の番号が書かれている。一列に座った参加者が折据と呼ばれるカードケースに入ったこの札を引いて『役』を決めるのだが、参加者のだれかが雪月花のグランドスラムを達成しないと終らないある意味過酷なゲームです。計算すると6人だと、3回で終る確立は1/36程度。結構延々と続く感ありですよね。これが事件で利用される・・・

大学卒業を来春に控えた今頃の時期、仲のいい男女各3人グループの女性一人が寮の自室で死んだ。自殺なのか他殺なのか、なぜ死んだ仲間のことをもっと知ることができなかったのか、思い悩む内に次の事件が起きる。雪月花之式で楽しむ最中、お茶を飲んで死んでしまった。原因は青酸カリの服毒・・・これもまた自殺なのか他殺なのか・・・複雑怪奇な事件をグループの一人が紐解く・・・仲間なのに・・・相手のことが全然わかっていなかったことを悔やむ・・・

この本、事件の解決が卒業かと思っていたんですが、そうでは無くて、ある意味、人間関係の脱皮を卒業と言っていたのでしょう。それにしても、学校の卒業を機にして、人間もバラバラになるそんなことって、この本のような事件が起きなくてもありますよね。本当はずっと仲間でいたくてもチリジリになる・・・どうしょうもない巣立ちなんですよね。歳をとってくると、心の余裕からか、あの頃が懐かしく感じる。そこではじめて、ちりじなった各人の人生という線が、時を経て交り合うのかもしれませんね。