小さいおうち 作:中島京子 感想

東京郊外の閑静な住宅街、昭和初期そこにはまだ森や緑があふれていて、自然の中の小さな赤屋根の洋館の佇まいは、落ち着いていて、あったかくって、そして人の気持ちがあった。
昭和の初め、山形出身のタキは、十三歳で東京に女中奉公に入った。奉公先は小説家の小中邸。そこで主の小中先生からイギリスの女中の「ご主人様のためにお友達の原稿を暖炉で焼いて差し上げた話」を聞かされる。この話しの主人を想う気持ち、思慮深い女中の話しは、その後のタキに大きな目標を与えたかのようだ。その後、時子奥様のもとで平井家で奉公するようになり、賢く働き者の女中タキは、平井家に無くてはならない人になっていて、嫁いだとしても通いで奉公したいとまで思っていたが、戦争が色濃くなる中、後ろ髪を引かれながら田舎の山形に戻る。老齢のタキの回顧録のように書かれているが、この本が伝えたかった本当の物語は、美貌で人を引きつけてやまない時子奥様をしたうタキの心だと思う。最後の『小菅のジープ』にまつわる話しは、とても深くて、人の歴史を感じるいい話しでした。
なんだか、心が温まる本で、ほっこりした気持ちがジーンといつまでも続いています。