MOMENT 作:本多孝好 感想

病院というある種『希望』と『無念』がないまぜになっている環境下で、長期の入院患者で、しかも末期のいわば助からない患者の耳にしか入らない噂がその病院には存在する。それは、死を間近にした患者の願いをたったひとつだけ死の前にかなえてくれる人がいるという。誰なのかわからないが、仕事人と呼ばれ、時に『深夜の病院に忽然と現れる黒衣の男』だったり、『病院の掃除夫』を装っていたりしているらしい。でも、それがどこの誰であろうと願いをかなえてもらった患者の死に顔は、晴々とさっぱりしていると伝えられている・・・この本、そんな仕事人の話しです。
短編が4つ入った本ですが、私がもっとも感動したのは「FIREFLY」の中に出てくるミーコちゃんです。手鏡を見て、成りたい自分を想像して、楽しいことを三つ考える。そして、鏡の中の自分に代わってあげようかと言うと鏡の中の自分と現実の自分が入れ替わって、病気も治っている・・・小さな女の子が、病気から逃れることを願って言っているのだけれど、あまりにももの悲しくて、切ないんです。私が子を持つ親だからかもしれませんが、こんな話ってひどすぎます。無力な自分に腹が立ちますが、現実には何もできず、ただ必死で祈るしかないんでしょう。本当に心にぐっとくるいい短編ばかりでした。