天使のナイフ 作:薬丸 岳 感想 

舞台は大宮を中心に埼玉・板橋・池袋と聞きなれた地名が並ぶ。3人の凶行により命を奪われた主人公桧山の妻、しかし、当時13歳のだった犯人の少年達は、『可塑性』を重んじる少年法により守られ、重罰も謝罪もなくさらに名前すら明かされない。理不尽という言葉が心に浮かぶ・・・被害者の怒りの矛先はどこにも向けられない、ただ、ただじっと耐えるだけ・・・なんとも切なく桧山の気持ちが痛いほど伝わる描写からはじまる。現実にも多々ある少年事件、少年法の一部改正で被害者の情報開示請求には限定で応じるようになったものの、13歳以下の犯罪は事の大小に関らず隠匿という言葉がふさわしいくらい隠される。少年の立場なら利用してやるといった輩もいるだろう、またそれを悪用し、少年に指示する悪い大人もいるだろう、可塑性という言葉は、常に少年の保護と健全育成といった正善説に基づいた少年の未来を重んじての保護とも言える。どんなに叫んでもどんなに泣きはらしても帰ってこない被害者、少年法に守られ保護観察や児童自立支援施設で過ごし、数年で帰ってくる加害者の少年達。そんな社会的な問題の原因となったものは・・・遡ると、悲しいくらいの運命のいたずらが、自業自得と言わんばかりに連鎖する。そんなとってもドラマチックな仕立ては、昔しあった山口百恵の「赤いシリーズ」といったドラマを思いださせる。赤い・・・ファンの皆様、読んでみてはいかがですか・・・是非ドラマでも見てみたい一冊です。