ツナグ 作:辻村 深月 感想 

一生にただ一度だけ、亡くなった人と会えるとしたら、あなたは誰に会いたいですか?
重たくて神への冒涜のような事柄かもしれませんが、こんなことができるのが『ツナグ』=『使者』なんです。使者の役割は、会いたいと申し出があった死の世界にいる相手に現世の依頼者の想いを伝え、相手が会ってもいいと承諾するなら、満月の夜一晩だけ会うことができるようにするんです。
本の中には、「親」「友達」「アイドル」「恋人」とのツナグが書かれていました。会うことに対する依頼者の心の葛藤はもとより、亡くなっている相手の会うまでの想いも書かれています。人の心って一つの見方だけではなく、いろいろな見方があるものの、その真理は、相手本人でしかわからないものですよね、だから『あの時』、生きていた『あの時』どう思っていたのか知りたいと考えてしまうのでしょうね。人間だから、生きているから、繊細に考え、慎重かつ大胆に行動する。それは、どんな行動であっても間違いではなく、でもそれはすべてが正解と言えることでもないのです。

書店で『ツナグ』って何を?と思って手に取った一冊でしたが、ツナグって素晴らしいことだと思いました。
なぜなら、わたしにも『ツナグ』にお願いしたい人がいます・・・・。

ふがいない僕は空を見た 作:窪 美澄 感想

毎日暑いですね。節電の夏が来て、どうしても逃げられない暑さが襲ってきて、日陰に涼を求めてもコンクリートの照り返しでムッとしていて、なのにメタボの私の体重は増加傾向にあり(関係ないか)、すべてのものに矛盾を感じ、自分の力のなさにすこし嫌になっているこの頃です。このブログも、書いても自己満だけのようでなんだか空虚な心持で気が向かなかったんです。でも、読んだ本が書かせるってあるんですね。いまがまさにその気持ちで、久々に盛り上がってます。
この本、はじめは、「官能小説??」って思うくらいしつこい性描写で「エッ!」って思ったんですけど、読み進めるうちに、はじめのストーリーの意味がわかってくると、あるべきしてあるんだなと納得しました。主人公の「僕」は高校生。青い性って年頃ですよね。その僕は、強さと弱さを併せ持っていて、世間から後ろ指を刺されてしまう状態で、引きこもりになるが、僕を温かく見守る母は、付かず離れず、子供を見守る。その想いが僕を立ち直らせる・・・
あの『告白』のように、登場人物一人ひとりの立場から書かれた短編が重なって、一つのストーリーを作っています。人の命の重さが、ひしひしと伝わる短編でした。読んでよかったです。ハイ。

続・星守る犬 作:村上たかし 感想

前作の「星守る犬」、ブックナビで紹介されていて電車の中で読んだら、失敗したと思うくらい泣けてきた記憶が残っています。今回の「続・星守る犬」も昨日のブックナビで紹介されていましたが、前作とは違った感動があり、非常に勇気づけられる内容になっています。本編は「がんこ婆さんと体の弱い犬」と「育児放棄にあっている子供と大きくなったパグ」という2つに分かれていて、どちらもすごくいい内容ですが、どちらかとあえて選ぶとしたら、自分的には後者がいいです。芦田愛菜ちゃんのマザーを思い出す内容に加えて、やさしいお爺さん、そして、パグ・・・パグがまたすごくいい!!すぐ読み終わってしまうので、今日だけで2回読み返しました。こんな時代だからこそ人に勇気を与えられるものっていいですよね。村上さん、別編でも構いませんので、ぜひ、次作を!!! 期待しています。心に栄養をくれる作品で、とってもしあわせな気分になります。ぜひ、お試しを・・・。

東京タワー 作:リリー・フランキー 感想

ここ一ヶ月いろいろなことが起きすぎました。爪あとは深く、これからも復活への道のりは長く続きます。人は今日と明日が違うように、一歩一歩進むことができます。明るい未来はすごそこにあり、手繰り寄せるのは、私たちです。そのためには、今みんなが力を合わせることが必要です。共に進みましょう明日を目指して・・・
私は、辛く厳しいとき、心の栄養を求めて読む本がいくつかあります。この本『東京タワー』はそのひとつで、いつも素朴で真っ直ぐなエネルギーを私にくれます。オカンの子を思う気持ち、親となった今、痛いほどわかります。オトンの破天荒ぶり、年老いて真逆に変ります。そしてボク、いつもオカンに守られていたボク、やんちゃもたくさんして、いつもオカンに守ってもらっていました。東京でオカンと一緒に住むことで、すこしづつ心が和んでいきます。夕日に染まる東京タワーは、病院の窓からでも美しく映えていたかもしれませんが、そこに家族があったからこそ、東京タワーの色が心に染みました。オカンを想う気持ち・・・世の中のすべての子供はみんな同じです。子のことを想わない親もいません。言葉はこれ以上必要ないと思います、家族の原点がここにあるんです。頑張りましょう!

夜の桃 作:石田衣良 感想

この本、全篇に渡り「男と女」のことが書かれているので、公共の場で読んでいると使用されている言葉がそれ風なので、フランス書院文庫に間違われるかと危惧するくらい過激でなま生しかったです。初めは「エッそれがテーマ?!」なんて思いましたが、実は「大人の恋」・「大人の遊び」・「大人らしくするには」などが、バブル時代のような背景で書かれていて、羨ましいと思う反面で、いつかみていろ!と闘志を燃やしている自分がいたりして、結構楽しめました。

主人公は、新進の広告会社代表の奥山雅人。広告企画を生業とするプロダクションの社長でありながら、その成功を足掛かりに自分も楽しめる隠れ家的なバーの共同経営者でもある。その奥山が本妻・愛人と絶妙のバランスを上手く保っているところに、運命の女である早水千映と出会う。千映は、ひとまわり以上年下だが、これまでの相手とは全く違って、絶妙な肌の相性を感じる。のめり込む雅人・・・そんな時、突然なにかがはじけた・・・よくあるストーリーのようだが、その中に石田衣良の色を強く感じます。ひょっとしたら雅人のモデルは石田衣良本人なのかも知れません、そんな感じがしました。

それにしても、どんなに暗く辛い夜であっても、必ず朝は来るんですね。だれにでも・・・

ダイイング・アイ 作:東野圭吾 感想

テレビでは、嵐の相葉くんが「バーテンダー」を演じていますが、このダイイング・アイの主人公の慎介も職業はバーテンダーです。相葉くんのバーテンダーは違いますが、一般的にバーテンダーというと夜のイメージに加えて、斜に構えて悪の香りがするのですが、ご多分にもれずこの本の慎介もそういう匂いがします。本物の悪は何なのか、最後の最後まで楽しませてもらいました。

慎介は、過去に交通事故を起こし、自転車に乗っていた岸中美菜絵という女性を撥ねてしまった。その恨みから美菜絵の元夫に、勤務するバー「茗荷」を閉めた直後、頭部を後ろからスパナで強打され倒れた。もう少し発見が遅ければ死んでいたのではと思われるくらいの大怪我だったが、九死に一生を得た。しかし、一部の記憶が無くなってしまった。その無くした記憶とは、岸中の妻の命を奪った交通事故のことで、慎介は自分の記憶を取り戻すために動き始める・・・記憶の断片をたどりながら、謎の女性、瑠璃子に魅かれて行く慎介・・・次第に明らかになって行く交通事故の真実、本物の慎介、そして美菜絵と瑠璃子の関係・・・その時はじめて、ダイイング・アイの意味が解りました。

特にびっくりだったのは、最後に出てくる取り調べの刑事でした。なんだか東野圭吾さんが身近に感じた瞬間で、電車の中でニンマリでした。

あの頃の誰か 作:東野圭吾 感想

最近の東野作品は『まさかのいきなり文庫!』があり、読者としては、単行本より安価に最新作が読めると言う点で非常に助かっています。この流れは、東野作品だけでなくもっと多くなってくると価格的にみても『電子書籍』の対抗になると思うのは、私だけだろうか?まあ、持ち運びと言う点では、電子書籍に勝るものは無いが、趣と言う点をこの際だから強調したいです。感想からだいぶそれかかっているのでこの位にしますが、本の文化は、電子化の流れの中でも『こだわり』があって欲いと想うのは、私だけでしょうか?
さて、こんな世の中だから時代の寵児のような流通キャッチのこの本、作者は、【わけあり】の作品ばかりと書いていますが、確かにコテコテの定番と言えるような作品もありましたが、そんな中でもこの本の最後を締めている『二十年目の約束』は非常に感動的でした。
幼いころ、生まれ育った街で起きた猟奇的な殺人事件。その被害者は、小学生の女の子だった。女の子は、小雨降る中、裏山にいるところを通りがかりの男に殺されたのだ。事件は、いつもそうであるように被害者のみならず、その家族や友達の生活も変えてしまう。ネタばれになるので、全ては書きませんが、「二十年目の約束」は、文字通り長い時を経て果たされた約束の一部始終が書かれています。長い間果たされなかった約束・長い時間が経ったからこそ許される約束・苦しんだあとに果たされたことで解放される心持ち・・・なんだか心にズシンと来ました。このような作品が【わけあり】ならもっともっと"わけあり"を出して欲しいですね。東野さん、今後ともよろしくお願いします。